『Star!!』『恋は渾沌の隷也』『花ハ踊レヤいろはにほ』『PUNCH☆MIND☆HAPPINESS』の作曲者が同一人物という受け入れがたい事実
普段アニメを見ない人間が主題歌、いわゆるアニソンのみを嗜むこと程「ラグジュアリー」なことはない。ラグジュアリーとは「贅沢」の意味だ。アニメの内容を知らないが主題歌だけ好きなんて状況は純粋なアニメ好きからすればなんと腹立たしいことだろう。例えるならスイカの先端、一番甘い部分だけを齧ってあとは残すようなものだ。しかし、事実としてスイカの先端は極上のスイーツだし、自分の感性に当てはまったアニソンは極上のトリップを脳内に送り届けてくれる。思うに、エンターテイメントは多少罪悪感が合った方が、よりよいスパイスになるのかもしれない。
そんな、アニメにそこまで造詣がなくて、けれど時々ストライクゾーンにはまるアニソンをヘビーローテーションしてしまうような自分が『合法的トビ方ノススメ』と言わんばかりにトリップ出来るアニソンを紹介したいと今回は思っている。
……という趣の記事を本来なら書こうと当初は考えていた。
ところが。この記事を書くために自分が好きなアニソンを並べ、いざ詳細をネットで調べてみると、ひとつの事実が浮かび上がって来た。「作曲者が同一人物?」そう、これから挙げるアニソンについてまず確認しておきたいのは、自分はこの人物のことを最近まで知らなかったことである。後述する四曲について、それぞれを、それぞれの経緯で知り、それぞれ独立して楽しく拝聴していた作品たちであるということを踏まえてほしい。
なんかいいなあと思っていた漫画2冊が同作者という経験はないだろうか。自分の経験で言えば幽遊白書とHUNTER×HUNTERがその例である。そんな作品が四。四である。全ては一人の天才のディレクションの元に誕生していたというのだ。推理小説だろうか。叙述トリックだろうか。天は二物どころか三、四物くらい分け与えてしまっているではないか。彼の掌の上で自分は完全に転がされていたのである。ただ叙述トリックでは絶対ない。
その天才の名は『田中秀和』。今回の記事は彼の作ったアニソンを知ってもらうためだけの記事である。あと、当記事では、ゆゆうたのことについては一切触れないのでお知りおきを。
『Star!!』はアニメ「アイドルマスター シンデレラガールズ」の主題歌。アイドルを目指す少女たちと、そのプロデューサーの奮闘と成長を描いた当アニメは彼女たちの精一杯な様子が心に来る、らしい。らしいというのは全話を視聴していないからだ。なんというMOTTAINAI。ブログに書く資格なんかあるのかという話だが主題歌はiTunesで課金したので許してほしい(シンデレラガールズはいわゆるソシャゲが原作である)。
しかし、そんなにわかが語らせていただくと、この楽曲が本当に至高なのだ。アイドルを目指す少女たちの『高揚感』『焦燥感』『アイドルという世界を登りつめていく姿勢』『キラキラとしたオーラ』全てが詰まっている。これが大袈裟じゃなく、本当に詰まっているのだから凄い。田中秀和、ここにあり、である。そして、それらをポップなアニソンにパッケージングする手腕。暴論になるが、この曲を聴いただけでも「アイドルマスター シンデレラガールズ」の良さのようなものが感じ取れる。(ただ、アニメは本当に名作らしいので是非全話視聴して貰いたい)曲途中であれだけうねるギターソロが入っているのに、シャララーンやキラキラーみたいな音と共存してるのも、なかなかどうして。ゴーンという音はシンデレラの十二時の鐘の音をイメージしてるのだろうか。流石、田中秀和、凄いゴーンを入れる。
『恋は渾沌の隷也』は「這いよれ!ニャル子さんW」のオープニング。クトゥルー神話を題材にした『ラブクラフトコメディ』の今アニメは二期まで放映される人気作。なのだが、この主題歌が中毒。もうドラッグ。コカイン。『Star!!』のような王道路線をやった後に、頭がぐんにゃりするような電波ソング。なんだ、いきなり歌い出しでくり返されるsan 値!ピンチ!は。多い。需要過多である。ブラスト系の音がガンガン攻めながらも、曲の雰囲気は二転三転する。ところどころ入る『にゃー』が頭から離れない。そして、やはりうねるギターソロ。というか、なんだ、この歌詞。san 値ピンチってなんだ。とか思っていたら畑亜貴が作詞と聞いて納得。しかし、王道とはほど遠いような曲にも関わらずど真ん中な楽曲に聞こえるのは本当に不思議。電波曲なのに、ああいう曲特有の鼻につく感じがないというか。声優の力量もあるのだろう。というか阿澄佳奈、松来未祐、大坪由佳の特徴的な声質がシンプルに良い。阿澄佳奈、好きなんだよなあ。
個人的なおすすめとしては、ランニングのときに聞くと、曲のBPMと調が絶妙で、めちゃくちゃ運動が捗る。ジムや公園で走ることが日課の人は是非やってもらいたい。驚くくらいのランニングとのフィット感。
「花ハ踊レヤいろはにほ」はアニメ「ハナヤマタ」の圧倒的主題歌。「ハナヤマタ」自体は、「よさこい」に出会った女子高生のガールズストーリーなのだが、この主題歌が五億点を叩き出している。五億点が大袈裟に聞こえてもいい。聞いて貰いたい。このあらすじのアニメで、声優さんを五人使ってお願いしますって発注を受けて作ったアニソンとして『正解』が出てしまった。なかなか正解なんてものはないのが世の常だが、「花ハ踊レヤいろはにほ」はその数少ない正解である。きっと音楽に精通しているひとなら、音の何がどういった要素で正解を出しているのか、きちんと答えてくれることだろうと思う。しかし生憎自分は「なんかいい」としか言いようがない。悔しい。「なんかいい」ってなんだろう。だが、間違いなく正解なのである。ピアノの旋律から始まるイントロ。爽やかな曲の肌触り。そしてサビでは五人のユニゾンから「つぶやいてみた」の囁くような声質まで、計算されつくした設計図を元に作られた青春ものの主題歌。なにより『恋は混沌の隷也』のような曲調とは異なり、歌い手側が地に足をついている感じがハンドメイドな質感を生んでいる気がする。SAN値!ピンチ!が3Dポインターで作ったような曲色とするならば。
自分は小説や映画など一見「正解」のない創作物で「正解」を出してしまう人が天才だと思っていて、そういった定義では田中秀和って天才に分類されるのだろうな。
そんな天才が、天才性もとい変態性を発揮したのが、この『PUNCH☆MIND☆HAPPINESS』。アニメ「あんハピ♪」の主題歌らしい。らしいというのは自分が今楽曲に関しては原作を知らない故に出た言葉である。いや、言い切るのは流石に失礼なのだがiTunesで課金したことと、それを差し引いても余りある中毒性に免じて許してほしい。(ああいう日常萌え系のアニメは「けいおん」の頃からそうなのだが、どういうスタンスで観ればいいのかを毎回悩んでしまう)という訳でこの楽曲は純粋に曲だけを聞いて惚れこんだものとなっている。で、この『PUNCH☆MIND☆HAPPINESS』、もう本当に頭がおかしい。ドラッグ。覚せい剤。まずイントロからの「パンパンパンチマインド」が埋め尽くす。かと思えばずっとピコピコ言いながら不安定な歌唱とリズムライン。中盤の「しあわせはどこに~」の不安定さにはまってしまえば、サビからはもう田中秀和の掌の上。大サビ前の「パンパンパンチマインド」連呼と転調からの大サビでは、もう「もっとくれよ、もっとくれよ」状態に。というか曲のアレンジが多動すぎる。同じパートでも同じようには進行させないという執念さ。いやー覚せい剤。田中秀和、覚せい剤。(覚せい剤ではない)
主題歌という言葉ほどプロフェッショナルを感じる言葉はない。作詞作曲編曲には、その作品にあった楽曲を提供する力が不可欠だ。それが「アニソン」となればなおのことである。「けものフレンズ」が「ようこそジャパリパークへ」というこの上ない適性をもった主題歌を引っ提げて他アニメを圧倒したことは記憶に新しい。素晴らしいアニソンはアニメの質そのものを引き上げるような相乗効果をもたらせる。
そういった意味では、今回の四作は全て異なる色を持っているが、どれもアニメの色にあった主題歌として作品に華を添えている。スイカの先を食べる、なんて話が冒頭にあったが、それだってそもそもスイカがなければできない食べ方だ。アニソンはアニメの主題歌、アニメを超えるようなことがあっても、アニメと異なる方向を向くことは本来の意味とは大きく離れる。そこから決して外れずに、物語にあった主題歌を音として提供する作曲。それがプロであり田中秀和の凄みなのだろう。
今回挙げた四曲は、四曲ともに「名曲」である。初めは『Star!!』『恋は渾沌の隷也』『花ハ踊レヤいろはにほ』『PUNCH☆MIND☆HAPPINESS』この四曲が同じ作曲者の手によるものとは思いもしなかった。それだけ徹底されたプロの仕事っぷりということであり、四作ともそれぞれに強度がある。
主題歌を作るという事は前述したような『正解』を見つけるような仕事なのかもしれない。それは簡単な数式で解けるようなものではなく、雲をつかむような作業の中、苦しみの果てに生み出されるものなのだろう。 『Star!!』『恋は渾沌の隷也』『花ハ踊れヤいろはにほ』『PUNCH☆MIND☆HAPPINESS』の作曲者が同一人物という受け入れがたい事実は、アニメを見ずにアニソンだけを聴くという贅の極みを生み出してしまうほどのプロフェッショナルによる、計算された解の証明なのだ。
(余談であるが、今回紹介した楽曲の作曲者はすべて田中秀和であるが、四分の三の作詞は畑亜貴であった。ここにもいささか受け入れがたい事実があるとは)